公演の初日が終わった後、ロビーのほうに行くと、手伝ってくれているスタッフの女性のひとりが私に小さな紙切れを手渡しました。
二つに折りたたまれていました。
「女の子が泣きながら、舞台を作った人に渡して下さいと言ってました」と彼女は言います。
その紙を開くと、こう書いてありました。
「わたしは演劇を見るのはほとんどはじめてなんですが、自分が天国にいるみたいでした。こんな経験初めてでした。」
これを読んで、「俺と同じように思っていた人がいたんだ」と知りました。私も、リハーサルの時から、舞台の最後の10分間くらいの間、「この世にいる感じがしない」というような気分を感じていました。天国を見ているというより、そこにいるというような感じ。
「俺は今どこにいるのだろう」と。
天国というのは曖昧な比喩ですが、要するに「夢のように心地よい風景と感覚」というような意味です。
最後のほうのシーンを見ていて、私は毎日その感覚にとらわれていました。
公演を見た他の何人かの人からも同じような感想をいただきました。
そのシーンでは、布で全身を隠した女性ともうひとりの女性が、煙(スモーク)で視界が消えかかった中で長い長いキスをしています。
詳細はともかく、今回の公演の出来は私にとって「奇跡」でした。
リハーサルなどを見ていた時に、すでにこれは私の公演などではない、ということを感じていました。私はすでにこの作品に参加させてもらっているひとりの人間に過ぎないと。
もはや「誰のもの」とか、「どんな脚本」とかいう観念はなく、強いて言えば、「作品そのものが独立していった」としか言えないもので、個人的にも生涯であれほど素晴らしい光景の連続を実際の目で見たことはありませんでした。
とはいえ、いくら書いても私の作品としてクレジットされている作品ではあって、このことをこれ以上書いても、自画自賛にしか当たらないと思いますので、ここまでにしますが、私は本番10日前くらいから決めていたことがありました。
それは、この作品を見て、見ている人に「こう思ってほしい」ということが決まってきていたのです。
それは、観客が女性の方なら、
「自分がこの地球に女性という存在として誕生してきたことを心から幸せだと思ってほしい」
ということ。
そして、観客が男性なら、
「その『自分がこの地球に女性という存在として誕生してきたことを心から幸せだと思っている女性』と同じ地球に存在できることを心から幸せだと思ってほしい」
ということでした。
そして、私は男性ですが、今、この後者の「『自分がこの地球に女性という存在として誕生してきたことを心から幸せだと思っている女性』と共に、この地球に存在できることを心から幸せだと思う」という気持ちに完全に生まれ変わっています。
公演は10月3日と10月4日の二日間でしたが、特に10月4日にこの気持ちが大きく自分の中に芽生えました。
つまり、私にとっては、この10月4日という日が二度目の誕生日となりました。
この日に(私個人の)宇宙と世界は再起動したようです。
クレアで執拗に書いていた「男性と女性の問題」は、その概念においては、この10月4日に完成した感じがあります。とはいえ、「人類の未来」などにあるような理論的なことはまだまだ進んでいないので、考えること自体は多そうですが。
そういえば、今回の公演のもうひとつの目的。
前々回記事の パンドラとヌーワ に出てきた不良少女のパンドラちゃん。
彼女の心の苦しみを癒やすという大きな目的がこの公演にはありました。
そちらのほうもある程度はうまくいったようです。
毎日、朝早くから来ていたパンドラちゃんは、最終的に劇場の人から最も信頼されるスタッフとなっており、また、稽古や公演が終わるごとに私にイラストつきのアドバイスをくれるようになりました。
公演の最終日には、私は彼女を正式に「演出補助」として紹介しました。
パンドラちゃんはとても元気になりました。
そして、私は勘違いをしていました。
「私がパンドラちゃんを癒やさなければならない」などと思っていたのですが、結果的には、パンドラちゃんのしたことが、公演の内容を大きく進化させて、そして、それは結局、私の精神を大転換させるキッカケとなりました。
私がパンドラちゃんを救ったのではなく、「私自身がパンドラちゃんに救われた」のが実際のところです。
ちなみに、パンドラちゃんは今では私のことを「おかママ」と呼びます(笑)。
お母さんみたいなものなんだそうです。
私 「お父さんではないの?」
パ 「オカさんはモロにお母さんっスよ」
ところで、この私の精神的な誕生日となった10月4日に、私は意外な人と出会いました。
女の子です。
そして、その女の子はこの日が本当の誕生日でした。
この女の子の言葉が、私に忘れていたことを思い出させました。
しかし、ここまで少し長くなったこともあり、この女の子のことも長くなりそうですので、次に書きます。
そのくらい印象的な出会いです。
ちなみに、公演にはブログを読んで予約いただいた方も何人か来られていて、たくさんお話もしたかったのですが、実質的な技術スタッフが少ない関係で、公演終了後は点検などで、お客さんと話せる時間がほとんどなく、ちょっとした挨拶だけで終わってしまったことを心苦しく思います。
また、改めてお礼させていただきたいと思うのですが・・・。
そういえば、公演の感謝動画を作りましたので、貼っておきますね。
思えば、このブログのこちらの記事を書いた時に、初めて知ったヌーワ・・・。
なるほどねえ、と何となく思うのでした。
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