前置き:米国のハリケーン
以前、地球の記録というブログを書いていた時に、最後のほうでは原油流出のことをよく書いたり調べたりしていたのですが、基本的にそのブログの更新をやめてしまったので、今ではあまり調べることもないです。今回の原油流出なんかの場合、日本を含む世界中のいたるところで利害が絡んでいる面もあって、そういう話題は好きではないということもありました。
それはともかくとしても、単に「現象の顛末」としては興味はあります。
当時、上のようなことを調べていたお陰で、原油や分解剤などの化学的組成などを少し知ることができたのですが、その過程でもっとも驚いたことは次のことです。「地球資源論研究室」という中にあったページの、『石油地質学概論−第二版−』(1-6p)からという中にあったこの部分です。1994年のものなので、結構前のものではあります。
> 石油成分の完全な分析は、たった1つの原油試料についても、いまだかつておこなわれたことはない。
とのこと。
これだけ日常的に使われているエネルギーである石油というのは、いまだに完全な分析は行われていないものなのでした。
その理由には、含まれている化合物が多すぎるということもあるようではあります。上の文書にも「おそらく1,000種以上の化合物から構成されているであろう。」と。また、産地によっても組成が違うらしいです(この理由もわかっていないとか)。
さて、アメリカにハリケーンシーズンがやってきました。
今年は、NOAA(米国大気局)から、特にハリケーンが多い年になるという予測が出されているのですが、昨日、ハリケーン ALEX (アレックス)が発生して、現在、メキシコ湾に進んでいます。数日内にはメキシコ湾近くにも到達する見込みで、 NOAA によると、「メキシコ湾に向かう可能性が80パーセント、メキシコ湾への直撃はせずに東にそれる可能性が20パーセント」とのこと。

このことが何をもたらすかという推測については、先日も書きましたように、変な予想は書くつもりはないですが、以前、少し勉強した原油と分解剤の成分について少し書いておこうと思います。私は基本的に化学に疎いので駄目ですが、化学にお詳しい方なら何か得られるのではないでしょうか。
なお、どうしてメキシコ湾に達するハリケーンがアメリカで話題になっているかというと、おおまかなポイントとしては、
1 海からの原油が陸に大量に降るという歴史上あまりない現象が起きる可能性
2 気化成分を含む石油分解剤 Corxit9500 が大気に混入する
という感じで、「1」に関しては、過去の中東での戦争の際に石油の雨があったという話も聞きますが、今回とは中東とはいろいろな違い(海、陸地、気温、湿度、ハリケーンの有無等)もあり、良い結果、悪い結果は別としても(必ずしも悪いと決まっているわけでもないので)、やはり、これから起きることは地球の歴史的に希に見る現象であるとは言えそうです。
原油そのものの成分については上に挙げたように、今でも正確な含有成分はわかっていないようです。
わかっている成分の中で、もっとも有害なものとされるのが、多環芳香族炭化水素というもので、これはいわゆるベンゾピレンという言い方が通りがよさそうで、タバコの発癌性なんかで言われるたぐいのものです。有機化学のページによると、「5つのベンゼン環が集まったベンゾピレンは強烈な発ガン物質として知られています」とのことで、発がんのメカニズムはわりと解明しているそうで、
人間の体は、水に溶けにくい異物が入ってくると、これに酸素を取りつけて(酸化作用)、水に溶けやすくして体外に流し出そうとします。ベンゾピレンも酸化されるのですが、これが極めて強い反応性を持ち、近くのDNAと反応してこれを傷つけてしまうのです。
とのこと。

わかっていない成分の多い石油の成分の中で、多分、明らかに有害なことが判明しているのはこれだと思います。ただ、これがハリケーンで大気に巻き上げられた後に、大気との関係がどうなるのか(気化や揮発の問題)は私にはわかりません。
一方、 BP が原油の分解に使っている Corexit の成分の一部は気化すると思われます。ハリケーンが去ろうが、大気中に成分として漂い続け、循環系の風に乗って漂ったり、あるいは雲となり雨となるように思います。雲は氷晶核と宇宙線の絡みでの発生と考えるのが妥当のようですが(STEL Newsletterの8-9ページなど)、人間が雲の発生を止めることは難しいです。
Corexit 9500 の成分
BP が使っている主な分解剤には、Corexit 9527と Corexit 9500 というものがあり、今回、問題となっているのは多分、後者の9500のほうのようです。 Corexit はコレキシット、あるいはコレキシトのような読み方でいいと思います。BP が政府に提出した書類はこちらで、この書類の中で、 製造元のナルコ・コーポレーションが有害成分として指定しているのは、
・Distillates, petroleum, hydrotreated light
・Propylene Glycol
・Organic sulfonic acid salt
の3種類で、それぞれ何のことやらわかりませんが、日本の厚生労働省の安全衛生情報センターなどの資料を参照すると、上から、
・ミネラルスピリット(石油留分の水素化精製又は分解により得られる軽油)
・プロピレングリコール
・有機スルホン酸塩
ということになるようです。
これはもともとがデータシートに「毒性がある」として記載されているので、毒性はあるのでしょう。マウスの実験のデータは読みましたが、人体に具体的にどんな影響があるのかは知りません。
今回は「海中であること、混合すること、気化すること」、そして何よりも「かつてないほど大量であること」などのような、これまでの想定外の効果が出る可能性もあって、結局は結果が出るまではよくわからないという感じはします。
先日アメリカで、ビーチの原油清掃作業員たちに免疫不全の病が蔓延しているという報道がありました。これは、毒性起因耐性消失症 と呼ばれているものだそうで、特定の化学成分と接したことにより、免疫異常が起き、様々な物質への耐性を失ってしまう症状の模様。シックハウス症候群などを思い浮かべていただいてもわかりやすいかと思います。
今回の毒性起因耐性消失症に関しても原因はわかっていませんが、しかし、普通に考えれば、原油か分解剤のどちらかの影響とは推測できるようにも思います。
こういうようなことがそれぞれ小さな懸念となってはいるようです。
まあしかし・・・。
地球の記録の時も書こうとして、うまく書けなかったのですが、人間も含む「生き物の生態系」だけに関していえば、それらの化学物質そのものの恐さというのは本当の恐さではないと考えています。「生態系だけ」と書いたのは、アメリカでは原油流出が原因で地震が起きるとか、メタンが爆発を起こすとか、一種パニック的な噂に包まれているからで、「他の様々な懸念がある中の生態系の問題」というような意味です。
クレアでもふれたことがありますが、「生き物の指数関数的な増殖の恐さ」というものは存在しています。
それを担うのが悪の手先の微生物(何だか微生物の評価が下がってるぞ)。
原油のそれぞれの成分や分解剤の成分のどちらに対しても「それを分解する微生物」、つまり「それを食べて生きられる微生物」は存在するはずで、それらは食べ物が増えると一気に増殖します。今、メキシコ湾の海の中は、原油を食べて生きる微生物たちの凄まじい倍率での増殖が続いているはずです。
微生物の脅威の増殖シミュレーションの再掲
以前、生き物の偉大さ: 「生」と「生きていないもの」の違いという記事で書いた、下の記述を再度掲げます。原油流出というような事件でまた使わなければならないとは思いませんでしたが、「生き物は無限に増える宿命を持っている」わけで、これはほぼ絶対的であると思います。
これは「一匹の細菌とその子孫に適当な栄養が与えられた場合を考えた場合の増え方」という資料です。ここでは大腸菌タイプの細菌を想定していると思います。一般的な細菌が好ましい環境下で複製に要する一般的な時間である「2〜3時間で一度分裂する」というところから計算すると・・・。
細菌の増加のシミュレーション
細胞複製1日目・・・最初の細菌は2〜3時間ごとに一匹から二匹へ、二匹から四匹へと増えていく、この最初の1日で約1,000匹の集団を形成する。この数の集団の大きさではまだ人間の肉眼で見えない。
細胞複製2日目・・・細菌の数は100万匹になり、集団の大きさは、針の頭の直径の約10倍程度と、肉眼でも見える大きさになる。
細胞複製4日目・・・細菌の数は1兆匹になり、重さは約1グラムになる。その数は毎日1000倍ずつ増える。
細胞複製5日目・・・重さが約1キログラムになる。
細胞複製6日目・・・重さ1トン。
細胞複製7日目・・・細菌の集団の重さが1000トンに達する。これは山の重量にも匹敵する重さ。
細胞複製11日目・・・細菌の集団の重さがエベレストと同じ重さに達する。
細胞複製13日目・・・細菌の集団の重さが地球の重量を越える。
細胞複製19日目・・・細菌の集団の重さが天の川銀河の重量と並ぶ。
細胞複製22日目・・・細菌の集団の重さが、私たちが「地球から肉眼で見えるすべての宇宙」の重さと匹敵するまでになる。
単体では肉眼で見えない大きさの1匹の小さな細菌は、増加を制御されなければ、約2週間で地球の重量と同じまで増えるのです。
もっとも、これは「繁殖に適切な環境下で」というシミュレーションであり、実際にはこうはならないわけですが。
「海が死ぬ」という概念は、化学物質で海が満たされるのではなく、「本来の生態系には含まれない生物(主にバクテリアなどの微生物)でその場が満たされる」ことだと思います。
なので、これから繰り返し米国にやって来るであろうハリケーンで本当に怖いのは、「その微生物による侵略の範囲が海の広い範囲と、そして、ついに陸地の川や湖にも拡大していく」ということだと思っています。
多分、ある程度はすでにそうなっているのでしょうが、微生物の侵攻を人間が止めることは無理で、その微生物は「食べるものがあるところならどこでも増える」という態度で、今後、数年から数十年の単位で、それは終わらずに地球規模で続くようにも思います。もっとも原油流出が止まれば、話は少し違うことになるでしょうけれど。
植物からの精神的支配に関してを書こうと思っていたのですが、本編の前に力尽きてしまいました
以前、「最近は眠っている時も起きている時と同じように考える」というようなことを書いたことがあります。ここ1〜2週間ほどはそれもなく、普通に眠っていたのですが、数日前からまた考える時が出てきています。
その中のひとつは、多分、前回の記事のコメントで、『植物になって人間をながめてみると』という本を紹介していただいて、その本はまだ読んでいないですが、本の紹介ページで著者の人が書かれている、
もしかして私、植物に働かされてる?! サトウキビ、綿、紅茶、ゴム…植民地政策で一大帝国を築き上げた英国はじめ人間は長く植物を利用してきたと思っている。しかし、実はその逆だとしたら…?!
という言葉に妙に納得いたしまして、最近、植物に支配されていると感じている生活の中で、生物の登場の「歴史的な順番」を見ても、植物が大型生物たちを支配しているということは合理性があるとは思うのですが、そこに立ちはだかるのが、やはり地球の歴史上で長い「微生物」なわけです。
私はずっとこれら「植物と微生物は仲間」、あるいは共に地球の生物環境を形成してきたものたちと考えていたのですが、どうも最近変わった。つまり、「彼らは仲良くない」と。
もしかすると、地球(宇宙)の歴史は、
植物 vs 微生物
だったりするのじゃないかと。
人類が初めて遺伝子のDNA解析に着手しだした頃、遺伝子推定領域(数)は何となく「人間はもっとも多いはずだ」と期待していたような気がします。「ゲノムの数でも人間は地球でもっとも複雑で高度なのだ」と期待していたように思います。しかし、約2万6千の遺伝子を持つというヒトは現実には遺伝子の数では、
イネ 約3万7千
トウモロコシ 約3万7千
などにはるかに及んでいませんでした。
最近では大豆の遺伝子解析も進んでいるようで、こちらはさらに多いようです。
でまあ、これらの意味する生物学的な意味はともかく、少なくとも「数では負けている」わけで、では、「数は何を意味するのか」と。
先日書いた「生命は不可量物質である」という一種オカルト的でもある概念は、植物をいじっている最近では、実はとても理解できるのですが、しかし、「まだまだ計れる物質はあるはずだ」とも思います。
生命に関する物質の発見に次ぐ発見で、もはや何も見つけられるものがないところまで行った時に、それでも「生命が何かはわからない」となった時に、「生命は不可量物質だった」となるのはいいことだと思いますが、まだ、人類には見つけられていない物質はあると思っています。
ということを本当は書きたいと思っていたのですが、原油流出のことを書いて、ここまでとなってしまいました。
ちなみに、以前「アメリカの憂鬱」という記事で書いた、フロリダの川での魚の大量死は、藻が原因だったようですが、最近の報道では、この新型の藻が発生し続ける原因もわからず、お手上げのようです。これらも広義での植物です。

▲ アスパラガスナナスという植物。うちにもある可憐な植物ですが、これも放っておくと、制御不能な増大の仕方をします。しかも強い。植物を見ていると「制御できない」という言葉によく突きあたります。