2012年10月18日

水のないプールの時代に東京に出てきて

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▲ 若松孝二監督/内田裕也主演の『水のないプール』(1982)より。当時は「内田裕也主演映画特集」なんかが深夜のオールナイトでよくあって、「十階のモスキート」なんかと同時に何度も見ました。
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私はツイッターはやっていないのですが、親しい知り合いに何名かやっている人がいて、フォロワー(?)だか何だか、ともかく、彼ら彼女たちがつぶやきを書くと「こちらのプラウザに表示される」というようなことになっています。

以前から、「人のつぶやきを読んで何が楽しいんだ?」という考えから抜けきれず、自分がツイッターとかをしないのもそのせいで、

「オレがつぶやいて誰が嬉しいんだ?」

というのがわからなくて、やっていませんし、今後も手を出すことはないと思います。


それはともかく、その知り合いのひとりのツイッターの文面に、


「今日はひとりで水のないプールでも見よう」


というのがありました。

私は「なんだ? 唐突に水のないプールって」と思っておりましたら、もうひとり、こちらは女性の知り合いですが、ツィッターに、


「若松監督亡くなっちゃうなんて・・・」


というものが。

それで私は、初めて「若松孝二、死んだの?」と、そのことを知ったのです。

タイトルにもした「水のないプール」は、若松監督の1982年の映画で、ちょうど私が東京に出てきた頃だったと記憶していて、深夜の映画館で何度か見ました。今はともかく当時はまだ輝いていた内田裕也さん主演で、当時人気絶頂だった「ピンクレディ」の活動をやめたばかりのミーが出ていました。


この若松孝二っていう人は、Wikipedia の作品群を見てもおわかりかと思いますが、1980年代までは基本的にピンク映画専門でした。

実際、1970年代ころから現在まで活躍している日本の映画監督には、ピンク映画から始めた人の数はたくさんいます。「そこから始まる」というのが当時の時代でした。

今はいわゆる「アダルトビデオ業界」というものと映画界の結びつきが基本的にないので、それぞれが別世界ですが、当時は「同じ」だったと言っていいと思います。



映画館で眠っていた時代に

私が東京に出てきた 1980年代の最初の頃の、東京の新宿あたりの深夜映画特集では一般映画もピンク映画も並べて公開されたりしていて、ジャンルがゴッチャに公開されていて、私もピンク映画もそういう時にいろいろなものを見ました。

思えば、みんなピンクを作っていたんです。

役所広司主演の「CURE」などを監督した、今や日本映画界の重鎮である黒沢清さんは、私が東京に出てきた年に、『神田川淫乱戦争』という映画と、『女子大生 恥ずかしゼミナール』(公開時は「ドレミファ娘の血は騒ぐ」)という映画を作っており、特に前者の面白さは異常なほどでした。

『ドレミファ娘の血は騒ぐ』は洞口依子さんが主演で、「この子、カワイイ!」と思ったものです。


また、最近、『おくりびと』という映画がヒットした滝田洋二郎監督は、私が東京に出てきた時には『官能団地 上つき下つき刺激つき』というタイトルの映画を撮っていました。

この「上つき下つき刺激つき」など、まるでエメラルド・タブレットの「上なるもの下のごとし」というような感じの響きがありますが、この少し前には歌手の畑中葉子さんという人が主演の『うしろから前から』というピンク映画などもあり、当時の日本の映画界は全体的に、錬金術っぽい世界だったということも言えます。


このような「お色気映画が監督としてのスタート」日本だけのことでもなく、昔のアメリカ映画界でも似たようなものだったと思います。

後に、『地獄の黙示録』とか『ゴッドファーザー』で世界を席巻したフランシス・コッポラなども、監督デビュー作品は『グラマー西部を荒らす』(1961年)という下のポスターそのままのお色気映画でした。


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▲ 『グラマー西部を荒らす』の日本公開時のポスター。中央下に「フランシス・コッポラ監督」とクレジットがあります。


亡くなった若松監督の映画で印象的なものといえば、『13人連続暴行魔』という 1978年の映画があるんですが、そこに当時の日本のサックス奏者として世界的に有名だった阿部薫という人(故人)のソロ演奏が長く入っていたりということがありました。

阿部薫というサックス奏者は Wikipedia などにも簡単に説明がありますが、1970年代の日本のフリージャズ・プレイヤーとして最大級のリスペクトを受けていた人です。二十代で亡くなっています。

YouTube に若松監督の『13人連続暴行魔』で、阿部薫がサックス演奏をするシーンがアップされています。残る映像の少ない人なので、結果としてこの演奏風景は世界的にも大変に貴重なものとなっています。




上の YouTube のリンクのコメントが、日本語より英文字が多いということでおわかりかと思いますが、同時代のフリージャズ演奏家の映像として、世界でもきわめて重要な資料として残っています。

今では少なくなったような気もする「本当の世界的なジャンルリーダー」だった人たちが、当時の日本の音楽の世界には多くいました。間違うといけないので、きちんと書いておきますが「セールスとかビジネスとしての音楽リーダーではなく、音楽そのものがリスペクトされている」という意味です。

セールスとリスペクトなど関係ありません。

芸術とビジネスを結びつけることに意味があるのは、「結びつけることに意味がある人たち」の話であって、本来は見るほうや聴くほうとは関係のないことです。

たとえば、あなたがビートルズのファンだとして、

「ビートルズってレコードがたくさん売れていたのですごいんでしょ?」

と言われたら、ちょっとムカつくのではないでしょうか。「いい歌があるからすごいんだよ」と言いたいことだと思います。これは本来はどんなアーティストのファンにも言えることだと思うのですが、今はどうも変わってしまったのかもしれません。

「あの人たちは100万枚売れたからすごい。その歌は自分は知らないけど」

という「歌そのものよりセールスのほうが先に話題になる」というのが普通になった音楽界というのもなんだかスゴイと思います。

昔は、日本の話として仮に 100万枚も売れたレコードなら、「日本人全員が口ずさめた」と思います。

「上を向いて歩こうなんて聴いたこともない」という日本人はあまりいなかったでしょうし、ピンクレディーの「UFO」なんて知らないという当時の若者もほとんどいなかったと思います。

みんな知ってる「みんなの歌」。
それがほんの30年ほど前までのヒットソングだったと記憶しています。

今では音楽は「数」でだけ認識されることが多く、「あの人たちは何百万枚のCDを売った」とわかっても、多くの人は口ずさむこともできません


まあ、ともあれ、ザ・ピーナッツを越える女性デュオは世界のどこにも存在しないし、ガーゼというバンドを越えるハードコアパンクバンドは存在しないし、阿部薫を越えるフリージャズ奏者もいないと思います。もちろん、個人的な感想ですが。

どうしてこういうような優れた人たちが唐突に地球上に現れるのか。

それは若い時から謎でした。

さらには、私が若い時は、「この人たちの 1000分の 1でも才能があればなあ」などとも思ったものでしたが、年を重ねるうちに、「そういうことでもない」と思うようになりました。

特に In Deep を書いている中で、

「何もできない人類の偉大さ」

というものも痛感して、無能はどこまでも無能でいいと自覚するようになりました。

上のような人たちは確かに天才。そして、それはたとえば、いわゆる超能力などと同じように「個性」であって、どうこう言及するようなものではないと。

そういうものがこの世に存在したということで、それとふれる時代に生きられたことに感謝すればいいと。




日本最高のシュール作品映画のタイトルが

そんなわけで、若松孝二監督が亡くなったことで少し思い出したことを書きましたが、若松監督の Wikipedia の作品歴を見ていて、「え? そうだったの?」と思う部分がありました。

それは、

> プロデュース作品としては、大和屋竺監督『荒野のダッチワイフ』(1967)


とありました。

この『荒野のダッチワイフ』という40年以上前の映画・・・。これは日本映画の中で、もっともシュールな映画と言われていて、「日本で唯一の完全な前衛映画」とさえ言われているものです。製作者は別の人だと思っていたので意外でした。

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▲ 多分、『荒野のダッチワイフ』のワンシーン。


上に「多分」と書いたのですが、私自身がこの映画を最後に見たのが何十年か前で、しかもその時、酔っ払って見ていて、よく覚えていないんですね。

探せばどこかにビデオがあるかもしれませんので、見つかったら、今度書きます。

ただ、今まで見ていない方で、これから見るのは難しそう。
どうもビデオなどはプレミア級の価格になっています。

下が Amazon 。

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この値段はちょっと。

楽天では中古もすべて売り切れていました。
なので、もし私のビデオが見つかったら、ご紹介します。


いろいろな人が亡くなるけれど、人が亡くなることは仕方ないわけで、その人たちがこの世にいてくれたお陰で、どれだけ私たちは楽しく充実した世の中にいられたか、ということを考えると、感謝こそすれ、冥福など祈れないです。


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posted by noffy at 13:34 | 23 to 24