2009年01月22日

私の中の埴谷雄高

最近、聖書にふれることなんかもあるんですけれど、今回は聖書ついでに、先日の記事で少しふれた作家の埴谷雄高センセイのことなど。

世界で私の一番好きな人(故人)ですが、人に紹介して喜ばれるような人でもないので、他の人に勧めたことは一度もありません。

しかし、こんな時代になったのならもういいのかなと思いましたので、少しだけ紹介させていただきますね。

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14年前に出会った衝撃

あれは1995年だったか、NHK教育で「埴谷雄高独白 死霊の世界」という番組が平日5日間連続で放映されたんです(ひとりの人物の独白が1週間ぶっ続けでテレビで放映されるというのは他に例がないのでは)。私は三十代の初めくらいでしたが、ナンとそれまで私はこの埴谷雄高という作家を知らなかったのであります。

「誰だ? このジイサン」

と思いながら見ていたのですが、この人が語る世界がものすごかった。
あまりのショックに私は訳がわからなくなりましたが、同時にとても嬉しい気分にもなり、また同時に、なぜか、肩の荷がおりて、とても自由な気分になれたことを憶えています。

埴谷雄高・独白「死霊」の世界 (1)


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△ 埴谷雄高の「死霊」の世界観である「虚体」は難しい概念です。「実体」ではないということで、虚体とは氏の言葉で語れば、「かつて存在しないこと、また今後もあり得ないもの」で、「それを目指している」というわけですよ。目指すもののレベルの高さがスゴイ。この時、多分、85歳くらい。亡くなる4年前です。


この番組を見てから、私の価値観は相当変わりました。今の訳のわからない世の中の進行を比較的すぐに受け入れられたのもこのお陰かもしれないです。

今は YouTube に全部アップされています(いい時代になったものだ)。

5日分で、全部で250分くらいあるでしょうから短くはないですが、興味のある方はご覧下さい。ひとりの人間が考え得るものとしては驚異的な思考であり、今の時代こそ私はまたこの崇高なジイサンの話の世界に立ち返りたいと思っています。



裁かれる釈迦とキリスト

このNHKの番組の中で、一番好きなのが七章「最後の審判」という章を語るところ。

この章では、釈迦とキリストが弾劾されます。

誰が彼らを弾劾するかというと、「それぞれが食べたもの」、つまり、イエスは自分で食べたガリラヤ湖の魚たちに、そして、釈迦はやはり食べたチーナカ豆に裁かれる様子が描写されています。「なぜ、お前は俺を食べたのだ」と。

少し抜粋してみます。


「いいかな、イエス、これほどお前に食われた魚の悲哀についてばかりこだわりつづけた俺についていっておくと、さて、お前はテベリアの海ともキンネテレの海ともまたゲネサレ湖とも呼ばれたあのガリラヤ湖のきらめき光った眩しい水面を憶えているかな。 (略)

俺達がはいった大きな網がひきあげられて、跳ねあがっている俺達の重さと多さを眺めて満足な喜悦を現しているお前の残忍な顔を、水上の宙に跳ねあがった数瞬の俺は永遠に忘れることはできないのだ。 (略)

おお、イエス、その顔をあげてみよ、お前の「ガリラヤ湖の魚の魂」にまで思い及ばぬその魂が偉大なる憂愁につつまれて震撼すれば、俺達の生と死と存在の謎の歴史はなおまだまだ救われるのだ。おお、イエス、イエスよ、自覚してくれ。過誤の人類史を正してくれ」



また、釈迦も同じように「お前の思想は我々草木に至っていない」ということで、食べられたチーナカ豆に弾劾されます。

「サッカよ。お前は憶えてはいまいが、苦行によって鍛えられたお前の鋼鉄ほどにも堅い歯と歯のあいだで俺自身ついに数えきれぬほど幾度も幾度も繰り返して強く噛まれた生の俺、即ち、チーナカ豆こそは、お前を決して許しはしないのだ」

なんとラジカル・・・。
いろんな考え方はあるでしょうが、「食われたものが食ったものを弾劾する」という方向性はこの時初めて知った考え方で、非常に目覚めさせてくれる価値観でした。



△その内容が紹介されている部分。


その頃ふだんは、NHK教育なんてチャンネルを回すこともなかったのに、なぜか夜の10時にNHK教育がついていたというのも嬉しい偶然でありました。

私は文学には興味がないですが、埴谷雄高のことを文学論として捉えるから間違えるのであって、「宇宙論」あるいは「存在論」とすればナンの問題もないです。


最近の世相というより、いろんな状況を見るにつれて、埴谷雄高は文学者というより、むしろ預言者だったのではないかと思うようになりました。そうに違いない。

実際「埴谷雄高」というのはペンネームで、本名は般若豊ですからね。


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posted by noffy at 09:23 | TrackBack(0) | ニシオギ日記
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